典型的な朝の話

1軒目の居酒屋を出たあと、連れられるがままに2軒目へと向かった。2軒目も当然居酒屋に行くものとばかり思っていたが、入ったのは厚化粧した女性がいるスナックだった。私は女性の話を全く聞かずに適当に相槌を打ち、できるだけどうでもいい曲を選んでカラオ…

1年前の今頃の日記その5 チベット寺院にて

起きてから宿を出ようとするが、宿主が見当たらない。いつもロビーに居候している男(彼は私を見かけるたび「コニチハ!」と話しかけてきた)に尋ねると、スマホの翻訳機能を使って「boss go out」と教えてくれた。いつ戻って来るのかもわからないというので途…

1年前の今頃の日記 その4 大峡谷

朝起きて、中国人向けのツアーのオフィスに行った。ここまで来たからにはチベット族の村に行きたいと思ったが、自力で辿り着くのは難しいようだったからだ。オフィスで身振り手振りで手続きをしてからしばらくすると1台のバンがやってきて、10人ほどの乗…

1年前の今頃の日記その3 シャングリラ

朝起きてチェックアウトしようとすると、宿の小姐が「時間があるならお茶でも飲んでいきなよ」と言うので、テラスに上がって共に茶を飲んだ。雲南のお茶はとても濃く、最初に器に注いだお湯は全て捨て、2杯目から飲むらしかった。ちなみにプーアル茶は雲南の…

1年前の今頃の日記その2 麗江にて

朝起きて8時頃にホテルを抜け出した。腹拵えをするつもりで古い街をフラフラしていたが、まだどこも開いていない。1時間ほど歩いてから、街外れの薄汚い路地の一角にある小さな食堂に入った。食堂と言っても少し大きな屋台のようなものだった。壁に書かれた…

1年前の今頃の日記 その1

1年前の今日の日記を、思い出しながら書いてみようと思う。旅に出た日のことだ。 二日酔いのまま、早朝にカプセルホテルをチェックアウトして空港へ向かった。 慣れない国際線だが搭乗手続きをなんとか済ませ、ロビーでTwitterを開いて「今からしばらく旅に…

弱み

地元に住んでいる中学生以来の友人たちが、私の住んでいるまちを訪れてくれた。美味しいものをたらふく食べ、酒を水のように飲み、二日酔いになりながらいくつかの観光地を適当に回った。とても楽しい、懐かしい時間だった。 帰る友人たちを見送りに空港まで…

霜月

11月に入ると同時に気温が急激に下がり、もう冬だという声を聴くようになった。今住んでいるところは昨年までいたところよりはだいぶ暖かいから、街中でもうコートやマフラーを纏った人を見かけて少し驚いた。きっと寒いと感じたときからが各々にとっての冬…

25の秋の破片 その1

月の数字がひと桁増えて、ようやく暑さが姿を消した。空と風は秋がいちばん心地よい。住んでいるまちは稲刈りが遅くて夕陽がきれいなところだから、今がまさに秋の装いといった様相だ。 先日、ひとつ歳を取った。歳を取ってもその年の抱負を考えることもなく…

長月

夏場は水不足が懸念されていたが、暑さも峠を越えた頃からは雨が降り続くようになった。稲刈りが間近に迫って田も黄金に染まりはじめ、少々であれば恵みの雨となるが、これ以上長く雨が降り続くようだと収穫にも影響を及ぼしてしまうかもしれない。食べ物や…

隠遁

梅雨が明けると同時に、東京の家を引き払って、田舎へと引っ越した。もともと東京に長く住む予定はなかったから、梅雨明けは都合のよいタイミングだった。新しいまちは、きっと多くの人が名前を耳にしたことのあるまちだが、その印象を問われると何も出てこ…

人間が引き起こすエラーに関するメモ

人間は生きている中で必ずエラーを起こしてしまう生き物だ。そして特にここ最近、多くの人間がこのエラーを起こしてしまっていると思う。 ここでいうエラーというのはヒューマンエラー、すなわち意図しない失敗のことではなくて、通常の状況であれば冷静な判…

文月

天気は未だに不安定なままだが、苦手な6月が終わって7月になった。体調の優れなかった前月とは打って変わって、今のところ7月は調子がよくて助かっている。 先日は大学があった街に帰った。東京から日帰りで行けぬ場所でもないが、せっかくなので2泊して街を…

水無月

職場は摩天楼の高層階にあって、広い窓からは空がよく見える。先月までは青々としていた空も、6月に入り一転どんより曇ってばかりだ。光が差し込まない部屋にいると、なんだか気が滅入ってきてしまう。梅雨入りと同時に風邪を引くのは毎年のことで、我が身体…

やりたくないことリスト

やりたくないことリスト、というものがあるらしい。やりたいことよりも、やりたくないことを書いたほうが精神的な欲求に忠実であるから、やりたくないリストを作るのがよいということらしい。リストに挙げたことは絶対にやらないようにして、そこに書かれて…

ピクニックには早すぎる

お弁当を作るようになってから1ヶ月が経った。3日坊主になることを懸念していたが、意外にも今のところは苦労することなく作り続けることに成功している。 日曜日の夕方、笑点が始まるころに台所に立ち、大河が始まるくらいの時間までの間に5日分のおかずを…

東京

東京に引っ越した。郊外の町に住んで、そこから毎朝電車に乗って会社に向かう生活が始まった。朝は6時に起きて、まず作り置きしておいたおかずを弁当箱に詰め、写真を1枚撮る。そしてそれからそれ以外の雑多な準備を済ませ、7時が過ぎたころに家を出る。この…

町に別れを告げるのが怖い

6年間通った大学を卒業して、今住んでいる町からも引っ越すことになった。高校を出たてでこの町にやって来たときには考えもしなかったが、今はここを去ることが寂しくて仕方がない。 大学生活はそれなりに楽しいものだった。学年が若いうちは、夜な夜な友人…

ひなびていた

温泉に行きたいという気持ちが、他の全ての行為をつつがなく行おうという気持ちよりも上回ってしまった。ここ最近はあちこちを移動していたのだが、風呂に関してはあまり恵まれてこなかったのだ。湧き上がってきたこういう気持ちは実際に温泉に行かないかぎ…

彷徨う夢をよく見るという話その2

飲み会をのあと、終電では帰れなかったので親しい友人の部屋に泊まった。酒を飲んでから慣れない場所で眠ると、おかしな夢を見てしまうことが多い。そして以前にも記事を書いたように、私が見るのはやはり彷徨う夢なのだ。 私は地下鉄のホームに立っていた。…

昔流した瓶

絶対見つからないと思っていたのだが、高校生の頃に書いていたブログを見つけてしまった。アドレスバーにうろ覚えのURLを打ち込んでみたところ、見事に正解してしまったのだ。それほど多くの記事を残していたわけではないが、そこには人生の先行きも描けず、…

ノスタルジア

都内で催された大きな市に行った。毎年決まった日に行われる骨董市のようなもので、もう400年以上もの歴史があるらしい。私は想定していたよりもずっと窮屈な人混みに流されながら、古着や雑貨、骨董品や玩具などが並んだ露店を眺めていた。 露店の品物や、…

二十の私はもういない

久しぶりに、坂口安吾の『風と光と二十の私と』を開いた。初めて読んだのは20歳のときで、確かTwitterの坂口安吾botに紹介されたどこかの一節に惹かれて本を手にしたのだったと思う。安吾の文章を読むのはその時がはじめてで、あるときは他者に寄り添い、ま…

彷徨う夢をよく見るという話

夢を見た。私は山あいの小さな浜を見下ろす小高い丘の上にいた。眼下に見えるのは漁村だろうか、海と山に囲まれた狭い浜には、古びた家々が所狭しと並んでいた。どんな人々が暮らしているのか興味を抱いたので、私は丘を下りてみることにした。坂を下る途中…

崇められる肉

Twitterにきわどい写真をアップする女の子と、彼女を取り囲むフォロワーたちを観察するのが好きだ。いうなれば彼女は公園でパンをちぎってなげる少女で、フォロワーたちはそれに群がってくるハトだ。暇な私はその様子を少し離れたベンチから眺めている。ぼん…

ロマンチストでなければ生きている意味がない

「ロマンチストでなければ生きている意味がない」 ふと頭の中にこんなフレーズが浮かんできたことがあった。突然思い浮かんだわりにはなかなか気に入ったので、ときどき思い出してぼそっとつぶやくこともある。ロマンチックというのはいい言葉だと思う。理由…