彷徨う夢をよく見るという話

 夢を見た。私は山あいの小さな浜を見下ろす小高い丘の上にいた。眼下に見えるのは漁村だろうか、海と山に囲まれた狭い浜には、古びた家々が所狭しと並んでいた。どんな人々が暮らしているのか興味を抱いたので、私は丘を下りてみることにした。坂を下る途中、黄色い帽子を被った小学生たちとすれ違った。「こんにちは」と声をかけると、彼らも威勢のいい声で「こんにちはあ」と返し、そのまま坂を駆け上がっていった。牧歌的という言葉を漁村に対して使うことができるのかどうかわからないが、私はきっと漁村には牧歌的とでもいうべき日常があるのではないかという期待を抱いていた。さらに下って行くと、だんだん海が見えなくなり、さっき見下ろしていた町並みが目の前に現れた。家はどれも木造で、都会に住む私には風情を感じさせるものだった。海辺の方にある家などは、1階部分を海に口を開けて造られていて、その中を覗くと小舟が置いてあった。どうやら舟屋と呼ばれるものらしかった。お腹がすいたので食堂を探したが、見当たらなかった。私はしばらく気の向くままに磯の匂いや波の音に耳を傾けることにした。少なくとも私にとっては、この漁村は静かな時間がゆっくりと流れる心地のよい場所だった。

 不意に体が揺れた。地震かと思ったが、目を開けるとそこはいつも乗る電車の終着駅だった。私は寝過ごしてしまい、駅員に起こされていたのだ。うっかり新年会で飲み過ぎてしまった。終電に近い電車だったため、最寄りの駅へと折り返す電車はもうなかった。仕方がないので駅を出てネットカフェか安いホテルを探そうと思ったが、スマホで検索してみても要領を得なかったので、とりあえず歩いてみることにした。それほどの都会ではないが、既に明かりの消えた鉄骨のビルが並ぶ駅前はとてつもなく寂しい場所のように感じられた。それはさっきまでの夢の余韻のせいに違いなかった。しばらく彷徨ったが、一向に休めそうな場所は見当たらなかった。世界にひとりぼっちでいるような気分だった。

 そこで再び場面が変わった。日は高く昇り、私はアパートのベッドの中にいた。すべては夢だったと気がついて安堵したが、ひとりでいることに変わりはなかった。