長月

 夏場は水不足が懸念されていたが、暑さも峠を越えた頃からは雨が降り続くようになった。稲刈りが間近に迫って田も黄金に染まりはじめ、少々であれば恵みの雨となるが、これ以上長く雨が降り続くようだと収穫にも影響を及ぼしてしまうかもしれない。食べ物や愛を与えるのと同様で、何事にも適度な量があって、少なすぎたり多すぎたりしてしまうとすぐに綻びができてしまう。綻んだものはどんなものでも、直すのには時間がかかるし骨も折れる。

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 十五夜の日も相変わらず雨が降っていた。幼いころは十五夜に月を眺めながらもちを食べるのが楽しみだったが、いつの間にかそんなことは気にも留めなくなってしまっていた。季節の行事は現代になるにつれ忘れ去られるのと同様、子供から大人になるにつれても忘れ去られていく。

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 不思議なもので、先月は東京にはしばらく行かないだろうと思っていたのが、もうじき行くことに決まった。取り立てて用があるわけでもないし、東京に帰属意識があるわけでもないから、なぜそうしようと思ったのかについては合理的な説明が得られていない。だが、もし台風の影響で予定がキャンセルになってしまったのだとしたら、それはとても悲しいことだと感じられるに違いない。要するに、私はどこの土地にも縛られたくないし、自分の意志で絶えず移動し続けていたいだけなのかもしれない。