夏の日の突き抜けるような青い空にひこうき雲が

 何度も飛行機に乗っているうちに、昔は離着陸のときは緊張してばかりいたのが、いつの間にか何も感じぬようになってしまった。しかし、飛行機のちっぽけな窓から外を眺めることだけは、何度乗っても飽きないままだ。機体が上方に傾くとともに空港や付近の建物はみるみるうちに小さくなっていき、確かあの道路を通って空港まできたはずだなどと思っていると、いつの間にか機体は雲の中に達している。

 雲を眺めていると、空の中にも高さがあるのだということがよく分かる。今通っているのは積雲だが、そのだいぶ上にひつじ雲やうろこ雲があるから、空の上にもまたさらに空が続いているのだろう、といった具合の話だ。もちろん我々は、雲には上層雲から下層雲まであって、出現する雲の種類は高さによって違う、くらいのことは朧げに覚えている。だが、知っているということと身をもって知らされるということは全く違っていて、空に高さがあるということを知らされることではじめて、空の高さの様子を楽しむことができるようになるのだろうと思う。

 ところで、私が最も好きな雲はひこうき雲なのだが、残念なことにこればかりは飛行機からは眺めることができない。ひこうき雲は力強く進む飛行機が通った道筋にできるが、できた瞬間から徐々に薄くなり、やがて消えてしまう。青い空に流れる一筋のひこうき雲は強くて儚い。尾翼から流れていくひこうき雲を機上から眺めることができればよいのだが、それが叶わないのは自分の過去を振り返ることができないのと同様のことだろう。