2018年の邂逅 そのうち忘れてしまうであろう出会いの記録

① 6月 東京

銀座線の向かい側に座っていた就活中の女子学生。これから志望度の高い企業の面接に向かうのかかなり顔が強張っている。それを見ていて、自分が就活生だったときのことを思い出して胸がきゅっとなった。就活でいちばん嫌だったのはオフィス街の中にあって自分の居場所だけがないことだった。街を歩いても、電車に乗っても、カフェに入っても、自分だけがどこにも属さない浮いた存在のように思えた。そのようなとき、誰でもいいから自分がそこに存在するということをただ承認してほしいという気分になった。それにしても彼女の顔が強張っていたので、よっぽど励ましの声でもかけてあげようかという気持ちになったが、びっくりされるだろうと思いとどまった。彼女の顔を二度と見ることはないだろうが、なぜか半年経った今でもたまにそのことが頭に浮かぶ。

 

② 7月 大阪

ライブ帰りになんばの立ち呑み屋に寄った。ここは1月に大阪に来たときに初めて訪れた場所で、酒も料理もおいしかったので再訪した。台風が接近しており土曜の夜だというのに人影もまばらだった。しばらく呑んでいると、若い大将から「前も来られてましたよね」と声を掛けられた。立ち呑み屋ともなれば毎日何十人と入れ替わり立ち替わり客が訪れているはずで、前回訪れたときそこまで話し込んでいたわけでもなかったので、覚えられていたことはかなりの驚きだった。自分が住んでいる場所から遠く離れたところで、互いに名も知らぬ人が存在を知り続けてくれていたということに感動した。それでその日は気分がよくなって深酒してしまい、帰り道信号のボラードに座ってウトウトしていたところを通りすがりのお兄さんに起こしてもらう羽目になった。

 

③ 10月 長崎

長崎くんちを見たあと、長崎特有の異常に急な坂を登って小さなちゃんぽん屋に入った。しばらく待っていると、私よりもあとに入店してオーダーした隣のテーブルに、私よりも先にちゃんぽんが運ばれた。一瞬あれっとは思ったものの別に急いでいるわけでもなかったので特段気にしなかったが、運ばれたのはやはり私のちゃんぽんだったようで、隣のテーブルの人が箸をつけた直後ぐらいのタイミングで店員の方が謝りに飛んできた。隣の人は私が頼んだのと同じものを頼んでいたわけではないらしく、気づかずに食べてしまった隣の人にまで謝られてしまったのでなんだかバツが悪かった。その後しばらくして私のちゃんぽんが運ばれてきたので、待たされた分だけおいしいななどと呑気なことを考えながら食べていたところ、先に食べ終わった隣の人が会計のため席を立っていった。食べ終えたあとで私も会計をしようとすると、隣に座っていた人が私の分の会計まで済ませていたことを店員の方から告げられた。私はちゃんぽんを食べるのに夢中で全く気づかなかったので、隣の人の優しさに心を打たれながらも、礼のひとつもできなかったことに後ろめたさを覚えた。