25の秋の破片 その1

 月の数字がひと桁増えて、ようやく暑さが姿を消した。空と風は秋がいちばん心地よい。住んでいるまちは稲刈りが遅くて夕陽がきれいなところだから、今がまさに秋の装いといった様相だ。

 先日、ひとつ歳を取った。歳を取ってもその年の抱負を考えることもなくなったし、そんなことを人から尋ねられることもなくなったから、大人になったのだと思う。奇しくも誕生日は健康診断に行くことになっていた日で、ひとつ歳を取った体の中を検査した。前日の夜から何も食べていなかったから、誕生日に初めて口にしたのはバリウムだった。健康診断が終わってからは自転車で少し離れたショッピングモールに行って、ハンバーグを食べてから映画を見た。人を信じて失敗する人と、人を信じられずに失敗する人が出てくる映画だった。そのあとで楽器屋に行って、アコギを買って帰ってきた。毎日家ではあまりすることがないから、同居人になってもらおうと思ったのだ。まだあまり上手くは話せないが、それでもときどきは綺麗な音を奏でてくれて、一緒にいるのが心地よい。

 これまた先日、乗っていた列車が突然止まった。工事現場の足場が線路に崩れたらしい。私はイヤホンで音楽を聴きながら最近見た映画の小説版を読んでいたから、しばらくそのことに気が付かなかった。イヤホンを外すと車内放送があって、今から送電を止めるから全員外に出るようにと言われた。2両編成の電車に乗っていた乗客たちは、何もない無人駅に放り出された。初動が素早い者は手際よく駅前に着いていたタクシーを拾い、またある者は乗り換えがある2つ先の駅に向けて歩き出した。大多数の者は電車が動き出すのを待っていて、私も当初そうしていたが、どうにも動き出す気配がない。だが、こういうときは一人旅で培った勘が働く。Googleマップを見ると20分ほど歩いたところに国道が走っていて、その脇にニトリがあることがわかった。店のページを検索してアクセス方法を調べたところ、どうやらバスでも行けるらしい。小さい山を越えて国道沿いの停留所に着いたのとほぼ同時に、目的地のそばまで向かうバスが滑り込んできた。なんということのないただの移動が小さな旅になった。

 特に意味はないが、ブログのタイトルを変えた。以前のタイトルは好きなフレーズだったが、断片を綴るだけのブログには似合わないと思ったからだ。できるだけブログは意味のない文章を書く場所にしたい。